interview

Chef
久保田 剛史 Tsuyoshi Kubota

地元神戸の高校を卒業後、神戸ポートピアホテルにて料理人としてのキャリアをスタート。
2018年から神戸迎賓館 旧西尾邸のシェフを務める。
穏やかで気さくな人柄、あくなき探究心が紡ぎ出す料理は、美味しい発見にあふれた唯一無二の美食体験を届けている。
プロフェッショナルによって構成される「トック・ブランシュ国際倶楽部」の会員でもあり神戸が生んだ、フレンチの第一人者である。

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「日本の文化を紡ぐ」ことをテーマに、歴史的建造物などの維持・保全に取り組むバリューマネジメント株式会社。文化的価値が高い場所をホテルや結婚式場として活用し、非日常体験を提供しています。
バリューマネジメント株式会社によって、事業再生された歴史的建造物の1つに、「神戸迎賓館 旧西尾邸」があります。
1919年築の神戸迎賓館は、兵庫県の重要文化財に指定されており、当時と変わらないロマンティックな雰囲気が漂っています。
迎賓館内のレストラン「LE UN」(ルアン) でシェフを務める久保田剛史さんは、ウエディングと本格フレンチの提供を通して、訪れた人々の記憶に残る1日を作りあげています。
久保田シェフは、日々どのような想いで仕事に向き合っているのか。話していただきました。

「10年間は絶対にやり続ける」自分と約束して飛び込んだ料理の世界

いつごろから神戸迎賓館でお料理を作っているのですか?
2018年からルアンでシェフを務めています。高校を卒業してから約25年間は、ホテルの宴会部門やレストランで経験を積んできました。

この世界に入るときに「20年後にはシェフになる」という目標を決めていて、実際に前職のホテルでシェフになりました。その後ご縁があり、ルアンでもシェフとして働いています。
20年後というのは、何か意味があったのでしょうか?
もともと料理人になると決めたときに、家族にはずいぶん心配されまして。厳しい世界に入る覚悟として「10年間は何があってもやめない」という約束を親としたんです。

自分にとっても、10年やれば一人前という気持ちがあったので、意地でもやめないと決めました。同時に、さらにその次の10年は、チームのトップであるシェフを目指すことも目標にしました。
有言実行ですね。約束したとはいえ、実現するのは難しいですよね。シェフになれた理由はなんだと思いますか?
与えられた仕事に真摯に向き合ってきたからだと思います。

修行時代は、誰よりも朝早く出勤していましたし、上司が自分に求める働きを徹底的に考えていました。正直、時代的に厳しい上司が多くて、手が出てくるときもありましたから。指導方法は別として、叱られるには必ず理由があるので、その理由を考えればおのずと正しい仕事ができるようになりました

そうして毎日を大切に過ごしてきたことが、シェフになれた理由だと思います。

スタッフ全員でつくる「神戸迎賓館 旧西尾邸」の食事体験

シェフの仕事をしていて、喜びを感じる瞬間はどんなときでしょうか?
やはり、お客さまが再来店してくださったときですね。2回、3回と食べにきてくださるということが「前回の食事に満足したかどうか」に対する答えですから。

僕は、お客さまが帰るときに「お料理いかがでしたか」とはあまり聞かないんですよ。その質問は野暮だと思っています。いただいたお金に見合った価値を提供できていたら、お客さまは、もう一度来てくださるはずです。
神戸迎賓館内のレストラン、ルアンが提供する価値をお聞きしたいです。
おいしい料理はもちろんですが、ここで過ごす時間と、空間の特別感です。

きっと、お客さまがご自宅から神戸迎賓館に向かうところから、特別な時間は始まっていると思います。ワクワクする場所なので、いつもよりおしゃれしてみたり、お食事を楽しみにしてお腹を空かせたりしているでしょう。
「神戸迎賓館」という言葉の重みは常に感じていますが、この建物の魅力に負けない料理を出して、楽しい時間を過ごしていただきたいです。

もちろん、料理を提供するサービススタッフの対応も含めて満足していただきたいです。
サービススタッフの方たちと一緒に作り上げているんですね。
僕ひとりでは何もできないです。サービススタッフがいないと、自分の料理も届けてもらえません。

ミスしたときも、最初は「シェフが迷惑をかけて申し訳ない」と思っていたのですが、次第に「お互いに助け合って、最終的にチームとして良いサービスが提供できたらいい」という考えに変わりましたね。

本当に良いものが提供できたときはみんなで喜べます。正直、ひとりでやってしまう方が楽なときもあるかもしれませんが、何かを成し遂げたときの感動というのは、みんなで仕事しているときの方が大きいです。

一緒に働く仲間に感謝しながら、料理に向き合うようにしています。

シェフの「探究心」が料理に表れる

シェフが料理をする上で、大切にしていることはありますか?
番大切にしているのは、「探究心」です。
「探究心」ですか?
食材や調理方法に対しての探究心です。

新鮮なお野菜、新鮮なお魚、大切に育てられたお肉を使えば、ある程度おいしいものは作れます。ですが、現状を完璧だと捉えてしまうと、それ以上のものはできないんですよ。

「いただきます」という言葉は本当に大事です。私たちは、生産者さんが大切に育てた生き物の命をいただく以上、少しも粗末にしてはいけません。一番おいしい調理方法を考えて、私たちができる最大限の形に調理して提供することで、食材も喜んでくれるのではないかと思います。
調理方法も変化させ続けているのですね。
何十年も前に習得したレシピを、今でも改良して使うことだってあります。当時は全て手書きでレシピを記録していたので、はねたソースがこびりついたノートに書いて、また書いて、、みたいな。
いまだに改良を続けるとは驚きです。
料理の世界もどんどん進化しているんですよ。10年前は最先端だった調理方法も、今ではもう古いと感じます。自分が昔作った料理の写真を見ると「えっ!こんな料理を出していたんだ」と驚きます。だから、自分の料理を客観的に見ることが大事なんです。人の意見も聞かないといけません。

先日も料理長からフィードバックをいただきましたし、経験が浅いスタッフとも「どうしたらより良くなるか」というコミュニケーションを取るようにしています。そこでいただいた意見を取り入れて改善します。
調理方法の試行錯誤や、食材の研究を続けて今のシェフがあるんですね。
もちろん自分なりに努力はしてきましたが、シェフになった今の方がより努力しています。「役職が人を変える」といいますか、シェフという責任ある立場になって、より探究心が生まれています。お客さまが「おいしかったよ」と言ってくださった日は嬉しいですが、そこで満足しないようにしています。特に大きな問題がない日も、もっと良いものを作るために自分から課題を見つけにいっていますね。

「おいしさだけでなく、驚きも届けたい」

常に課題を考えて、おいしい料理を提供していることがわかりました。
おいしいだけじゃなくて、驚きも届けたいですね。

コース料理の中で何回「あっ」と驚くことがあるか、何回「すごい!」と思うか。お皿が運ばれてきたときの感動にまで意識しています。「五感で楽しむ」とよく言いますが、まさにその通りですね。1皿目が運ばれて、初めて料理を見た瞬間の感動が、コース全体への期待値を左右するので、1皿目のビジュアルには特にこだわっています。
お客さまに神戸迎賓館でどのような時間を過ごしてほしいですか?
何十年先も記憶に残る時間を過ごし、食事した日のことをふと思い出してくれたら嬉しいですね。神戸迎賓館は文化財に指定されているので、建物が残り続けます。例えば、結婚式を挙げて最高の1日を過ごしたとします。それで終わりではなく、記念日にまた来ていただいて、初心に帰るというか、当時の気持ちを思い返してくれたらいいですね。

僕はフレンチレストランで働いていますが、ウエディングにも携われていることは一つの幸せです。お客さまの人生の大切な瞬間に介在できることが、アニバサリーレストランとして運営されているルアンで働くやりがいです。

今日お話ししたことは全て、「お客さまに満足していただく」という目的に繋がっています。綺麗事かもしれませんが、理想を常に見て仕事をしています。

ー さまざまな想いをもって、シェフの仕事を全うされているのですね。普段はあまり語られることのない、シェフの熱意を聞くことができました。

何十年先も色褪せない体験を提供する神戸迎賓館

お客さまは特別な1日を過ごすために、歴史ある神戸迎賓館 旧西尾邸へやってきます。その高い期待に応えることは、簡単なことではないはず。

料理人として経験を積みながら、今もなお食材への探究心を深めて改善し続ける久保田シェフ。そんな久保田シェフのもとで、ともに料理を作る料理人やお客さまに料理を届けるサービススタッフ。全ての力が合わさって、お客さまの一生モノの食事体験を作っているようです。

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